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へんな言い方ですが、「人権」という言葉をむやみに振り回すのも非常に危険な場合があります。
たとえば病識がない重症の分裂病患者が暴れているようなとき、人権を振り回して放置していたら危険です。
重症の家庭内暴力の場合も同じです。
このとき人権を言い出したら、家族が危険にさらされるのです。
たいてい、軽症の人は自分から病院に行きますが重症だと病識はなく自分から病院に行くはずもなく、家族が連れていくのも不可能なことが多いのです。
このような患者をどう医療に導くのか、厚生省からちゃんとした対応策が提示されているとはいえません。
人権は患者ばかりでなく周囲の人にもあるはずです。
あの金属バット事件のときも、親が相談したカウンセラーから、「絶対に子供の言うことを否定してはいけない。
受け入れなさい」ということを言われたために親はがまんにがまんを重ねていたということですが、このロジャーズ的受容は文化を否定した対応です。
暴力はなんであれいけないのです。
大事なことは、事態を収拾して患者を治療することです。
「医療保護入院」といい、家庭内暴力がひどい場合には精神保健指定医と保護者の判断で入院させることができると規定されています。
私の経験では、家庭内暴力を振るう子供たちはたいがい過保護で育ち、気の弱い子たちが多いのです。
次の会話は、私と家庭内暴力を振るった子供の会話です。
「どうして暴力を振るうの?」「お母さんが言うことを聞かなかったから」「じゃあ、きみの言うことを聞かなければ暴力を振るってもいいの?」「おかしいですか?」「おかしいに決まっているじゃない。
お母さんはきみを保護し、食事を与え、お小遣いを与えているんだ。
きみはお母さんの保護下にあるんだよ。
そういう人に暴力を振るう権利があると思うの?」「────」「たとえばきみがぼくの言うことを聞かなくて、ぼくがきみを殴るとしよう。
きみはそれに耐えられるかな。
それはやめてって言うだろう。
だったら、お母さんにも暴力を振るっちゃいけないということはわかるだろう」そんなやりとりを続けるうちに、その子は泣き出していました。
そして、やったことを後悔しているんだけど、自分の思い通りにならないことが多く、どうしても抑えきれなくなってしまったと説明してくれました。
そうです。
ほんとうにこの子が殴りたいのは自分自身なのです。
自分を殴らなければならないときに人を殴っているのです。
そういうことに気づかせ、一歩ずつ心の歪みを正していくのが心の治療なのですから、もっと勇気を持って病院を利用してもらいたいと思います。
心を痛むということは、自分の苦しみのため(稀に人に苦しみを与えるため)通常の生活に支障をきたすということです。
しかしこのような病的レベルになる前に自分としてのまとまりに欠けた、つまりはアイデンティティの障害があることが普通です。
これを「アイデンティティ・クライシス」(自己同一性の危機)と呼んでみたわけですが、その大きな理由のひとつに、いままでみてきたように、自分と他人との関係、自分と家族との関係、自分と社会との関係などのなかで、自我が確立できなかったり表現できなかったりすることをあげることができます。
現代は家庭内暴力、少年の犯罪、親による子の虐待など、家庭にかかわる問題が多いといえます。
そこで、ここではまず家族関係の現在から考えてみましょう。
結論からいうならば、本来はやはり子供のために家族としてお父さんとお母さんがいなければならないのです。
大家族だった昔なら、おじいさんやおじさんなど、父親代わりになる人たちがいたから問題がなかったのですが、いまは各家庭が完全に孤立した核家族になり、そして核であるべきお父さんが会社にかすめとられて「核抜き家族」に変形してしまいました。
そうなると家にはお母さんと少数の子供しかいませんから、やおら母子密着型の家庭にならざるを得ません。
ほんとうほお母さんがお父さんの役割も果たせればいいのですが、やはりひとりでは無理が来るのもやむをえないのでしょう。
近所づき合いや親戚の出入りなどで家庭に世間の風が入ってくればまだ救いはあるのですが、最近は各家が孤立してそれも望めないようです。
そうすると、母親は子供との対立を避け、母子べったりという関係をとることが多くなります。
そのため子供はひ弱な過保護児となり、いじめに遭ったり登校拒否を起こしたりするのです。
そんな家庭には、やはりお父さんの影がみえません。
帰宅はしているのですが、家庭での役割と力がないのです。
すると甘やかされた子供は家庭内で権力を揺り、お母さんにだけは強くなります。
そこで家庭内暴力を振るうことになるわけです。
そもそも、後述するように、国際社会で家庭内暴力というと、普通は親が子供に暴力を振るうことをいうのです。
ところが、日本では子供が親に暴力を振るうことを家庭内暴力という。
これは世界的に異常なことといえます。
どうしてそんなことになったのでしょうか。
その問題のヒントを、1981年の総理府青年白書が発表しています。
つまりその調査発表によると、日本の家庭内暴力は1960年ころからみられるようになったというのです。
1960年といえば、日本の高度経済成長が始まった年です。
これはいうまでもなり、それまでは食卓の主座に座って家族全体を見渡していたお父さんが家を離れ、欧米列強諸国の生活水準に迫いつくために、「会社」という戦場に駆り出されて企業戦士として出兵したことを意味します。
つまり、日本ではこのときからお父さんが家からいなくなり、実質上の母子家庭が現出していきました。
そのかいあってというべきか、日本経済は急激な右肩上がりの成長を続け、欧米列強諸国に追いつくどころかあっという間にそれを追い越し、アメリカに次ぐ世界第二位の経済大国になってしまいました。
ところが、それでもお父さんたちが企業戦士という兵役を免除されることはありませんでした。
1970年代に始まった石油ショックを経ても、バブル経済という異常な時代を経ても、そのバブルがはじけて金ではない新しい価値観を兄いださなければならないといわれる現在に至っても、リストラの嵐のなかでお父さんたちはまだ会社という戦場で戦っています。
そしてまだ家には帰っていないのです。
このような光景は、欧米諸国にはなかったものです。
高度成長という日本の特殊な時代背景が家庭からお父さんを奪い、子供が母親に乱暴を働くという極めて特殊な日本の家庭状況を作っていったものと思われます。
しかし、この平成不況を機に、リストラされることを待つのではなり、お父さんたちは会社という戦場から心を解き放って家庭に帰り、新しい生き方を模索すべきだと思います。
そして家庭を再構築し、新しい幸せを作り出さなければならないのではないでしょうか。
いつも父親が不在で、お母さんからペットのように育てられた子はひ弱ですから、家では権力を握っていても学校に行くといじめに遣いやすいものです。
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